刀装具の観賞(『刀和』2005年5月号)

林重光 「三つ浦」透かし 鐔

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潮干狩りのシーズンである。網の透かし鐔があったことを思い出した。
この図は肥後では「三つ浦」の図とされている。言われを聞いたことがないが、こういう伝承は残しておきたい。たとえ伝承が途絶えていても、将来、研究が進み解明されることがあるのだから。

 この網は、干した網のようにたるんでもおらず、かと言って投げ網のように広がりきってもいない。程良く広がった網をデザイン化している。このように細かく規則的な図柄の場合は確かな技術と、単調さを超える印象を与えうるかが要点だ。緊張感を持って透かしているが、少し緩んだところも感じる点が即興性があったとされる二代重光(注)と思う。ただ、観ていると古い網を大事に、大事に使っているような感じがしてくる。これは伝統のある家を継承している代の良さである。

 この鐔に感じる「謹直さ」を古人は肥後の又七に続く春日派の鐔の特徴として挙げている。謹直、真面目、端正が美につながるのかと思う人もいると思うが、キチンとした折り目正しい所作が美しいと感じることがあるように美と相反する概念ではない。刀剣関係者には直刃の良さと言った方がわかりやすい。

 羊羹色とも評せられる錆色も見事である。なぜ肥後春日派の錆を羊羹色と称するのか。この鐔に即して説明すると、それは底に小豆色を秘めながらの黒く輝く錆色だからだ。強い光の下に曝すと赤茶色が浮かんでくる。昔、呉服を商っていた人から「黒紋付きに使う反物の中には、赤を先に染めているのもある」と聞いたことがある。反物と鉄はまったく違うが、黒の深みを出すことに対する原理原則は同じなのだろう。表面は黒、それも輝く黒だ。そして奥に赤茶がある。この赤茶が輝く黒に膨らみを与えて柔らかさを出している。潤いがあると評しても良い。この深みから品格が生まれる。

 造り込みも過不足がない。やや縦長の穏やかな円に頃合いの切羽台、笄櫃、小柄櫃を開けて端正にまとめている。耳は平地が少し続いてから丸く側面に移っていくが、この平地部分の長さが絶妙だ。

 謹直とは慎み深くて正直なことである。加えて品格があり、武士の持ち物にふさわしい道具となっている。これが肥後春日の鐔だ。

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