刀装具の観賞(『刀和』2005年8月号)

後藤光乗 「三匹獅子−国盗り−」目貫

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陽射しが一番強い八月に、後藤光乗の三匹獅子の金無垢(きんむく)目貫を紹介するのは、この作品に強い精気を感じるからだ。金性(きんしょう)もよく、強い輝きを放っている、この目貫を観ていると、それぞれの獅子が個性に応じた役割を発揮して「国盗り」に向かう姿が思い浮かぶ。それで「国盗り」と号して愛蔵している。

刀和のは白黒写真であり、ここではカラーを掲載、だけどあまりいい写真でもない。

中央の獅子が頼りがいのあるリーダーだ。表目貫の獅子には知謀に長けた、思いやりのある性格を感じる。裏目貫のは勇猛果敢だ。

表の中央(知謀に長けたリーダー 裏の中央(勇猛果敢のリーダー)

リーダーと眼を合わす外側の獅子は、表目貫のは自分が収集してきた正確な情報を大将に報告している誠実な部下だ。裏目貫の方は忠誠心が溢れ出て、指示を聞き洩らすことのないように必死だ。

表の外側(誠実に報告) 裏の外側(指示に忠実)

内側の獅子は先鋒となる武将だ。表目貫は見るからに果敢で、戦いがはじまれば一歩も退かない粘り強い剛勇の士だ。裏目貫のは、口数は少ないが、部下の信望が厚い歴戦の強者だ。「またの戦か、まかしておけ」とつぶやいている。国盗りに備えたチームワークができている。三匹ずつが覇気横溢(はきおういつ)して楽しそうではないか。

表の内側(剛勇) 裏の内側(信望厚い)

作者の後藤家四代目の光乗は織田信長、豊臣秀吉という天下人に信頼された人物である。戦国乱世の世が、これらの天下人の武力で統一されるのを間近に見ていた光乗は三匹の獅子を彫るのに託して、当時の戦国大名の気分を表現した。

獅子の金無垢目貫は後藤家の掟物(おきてもの)だっただけに数は多い。しかし、多くはお手本となるものを写しただけであり、この目貫のように生き生きとした躍動感が伝わってくるものは少ない。

この目貫の獅子の部分ごとを観てみよう。体躯は柔らかく、しかも強靱な感じだ。四肢には力が漲(みなぎ)って、次の動作に移れる緊張感を持っている。眼は獅子の気持ち、感じていることを代弁するように彫っている。「眼は口ほどにものを言う」と言うではないか。口は食べる為ではなく、相手との会話を想定して彫っている。鼻は呼吸をつかさどり、なるほど精力、生命力の源だ。

要は作者光乗が彫りたい意図から、彫る対象の構図、表情を彫っているのだ。形を写すことから出発した作品とはここが違う。

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