刀装具の観賞(『刀和』2005年10月号)

後藤光侶 「枝菊図」小柄

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菊花展で見る厚物(あつもの)、管物(くだもの)の菊は美しく、豪華で気品がある。一方、野に咲く菊は可憐である。また竹、梅、蘭と一緒に四君子(しくんし)に選ばれているほどに品もある。この一方で菊は丈夫で生命力が強い。お墓に供えても、一ヶ月以上枯れずにあって驚いたことがある。この為か、不老長寿の薬効があるとされて、昔は九月九日の重陽(ちょうよう)の節句には菊酒を飲んで祝ったそうだ。また日本の最高の家柄である皇室の紋所でもあり、桜と並んで日本の国花になっている。

この小柄は菊の持つ気高さを品良く彫っている。気高さや品の良さと言うと「手弱女(たおやめ)ぶり」を連想するが、作者である後藤家十代廉乗光侶は「益荒男(ますらお)ぶり」で気高さ、品の良さを彫っている。だから菊の持つ逞(たくま)しさも表現できた。「強さのある品の良さ」、これが廉乗の良さである。

四分一(しぶいち)の地金の魚子地(ななこじ)の上に、菊の枝、葉は赤銅(しゃくどう)で彫り、花びら、花芯、蕾は金と銀を使い分けて写実的に彫っている。まず枝と葉であるが、質の良い漆黒の赤銅で彫っているために四分一地との対比で瑞々しさがより以上に表現できている。そこに後藤家が植物を彫る時の伝統である露を銀で置いて、さらに水分を補給して生き生きとさせている。こうして菊の持つ生命力の強さを彫り上げた。

花は、白(銀)と黄(金)の花弁が交じった菊に眼がいくが、花弁が自然に白から黄に色合いが変化していくように微妙に象嵌している。現実にある菊とは思えない幽玄な菊を見事なセンスと技術で作りあげている。華やかさがありながら清楚な感じが出て、単なる金と銀の対比に終わらない品の良さが出ている。そして、この花芯はしっかりと彫っている。その膨らみの肉置きと、そこに入れた鏨から菊花にまとまりが生まれている。横長の小柄に合わせて、花はやや横長の楕円にデフォルメして彫っているが、楕円にしたことで存在感が増して、より華やかさを高めている。

写実的だから精密かと思うと彫り口は細かい鏨ではなく、むしろ骨太に彫っている。だから菊の丈夫さ、強さも同時に感じるのだろうか。
色々と分析したが芸術は作品を生み出した人物の人間性に行き着く。「益荒男ぶり」の気高さを彫れる廉乗はどのような人物だったのだろうか。

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