刀装具の観賞(『刀和』2006年1月号)

柳川直光 「狗児(くじ)図」大小目貫

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今年は戌年。柳川直光の犬の大小目貫を紹介する。昔は犬という言葉は犬侍、犬死でもわかるように、あまり良い意味はなく、刀装具などでは狗児(くじ)と表示している。この目貫は戌年の武士あるいは犬好きの武士が注文して、自分の差料(さしりょう)を飾ったのであろう。

大小の目貫の揃い物はあるようで少ない。この目貫は虎徹の大小が入った古い拵が解体されて世に出たものだ。大の目貫の短冊銘は表が柳川、裏が直光(花押)となり、小の目貫は逆である。直光だけのことかもしれないが、当時の慣行だったのかも知れない。うぶの大小目貫だからわかることであり、揃い物の価値がここにある。

この目貫の犬の姿態は、獅子の姿態とほとんど同じである。柳川派は獅子の彫りでは名高く柳川獅子という言葉、表現形式が残っている。犬を写生して、彫ったのではなく、犬の顔のお手本と二匹獅子の姿態のお手本から下絵を描き、それを彫ったのに違いない。ある意味で粉本主義(ふんぽんしゅぎ)であるが、刀装具の大半はお手本をもとに彫って、そこに作者の個性を入れているのがほとんどである。では、ここに柳川直光の個性がどう出ているのか。

全体の印象は装飾的であるが、派手で浮薄(ふはく)という意味ではない。犬の顔は明るく、忠誠心にあふれてる。またかわいらしく、犬の特性をよく把握している。犬の姿態は獅子がモデルだから不自然で、中には熊のように見える犬もいるが、肉置きは丁寧で顔、胴、手足、爪と部位ごとにキチンと彫っている。

金と銀で表現した犬の斑(ぶち)も定型的であり、面白くはないが、はみ出ることのない正確な象嵌だ。犬の身体の表面には斑(ぶち)の箇所も含めて、一面に細かい鏨を入れている。これによって漆黒(しっこく)の赤銅の色が柔らかくなり、体毛で覆われている様子を表現している。そして、所々に太い鏨(たがね)を入れて大きな動きをする筋肉を明確にしている。この鏨(たがね)の力強さが直光の自信を現しているようでいい。

すなわち、対象物の特徴を把握して、それを丁寧、精巧で浮ついていない華やかさと、金工柳川派の実質は二代目の総帥(そうすい)としての彫技に対する自信に基づく強さで彫り上げるのが直光の個性だ。

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