刀装具の観賞(『刀和』2006年4月号)

後藤徳乗 「馬具図」小柄

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山内一豊の妻の話ではないが、武士にとって、馬は商売道具の一つだ。その馬を御すための馬具を彫った小柄であり、後藤家五代徳乗(桃山期の金工で豊臣家の桐紋、徳乗桐で名高い)の作品として、十五代光美の極銘(きわめめい)が彫られている。

中央には銀で菊花紋の装飾がある轡(くつわ)、右には金色絵で馬櫛(うまぐし)、その下に赤銅に金色絵した引き綱か手綱がとぐろを巻いており、さらにその下には右に一本、左に二本の馬具(鞭ではないと思うが、私にはわからない)が赤銅に金象嵌や金色絵を施して彫ってある。

轡の円環、菊花模様、轡の一部を構成しているハミ、ミズキの棒状のものや、その先端の小さな輪など写実的だ。巻いている綱のカーブも自然であり、縄目も細かく、素材感が出ている。棒状の馬具の模様も象嵌、毛彫りできちんと彫っており、弾力まで感じる。

このように素材の質感まで表現できるほどの精密な写実にも関わらず、繊細な印象は感じず、むしろ逞しい印象を持つのは桃山時代の空気もあるだろう。加えて、これら馬具を整然と置かなかった図取りの妙もあると思う。この徳乗の感覚には凄味を感じる。

金、銀を多用しているが、轡や綱のように線状のものや、細かい模様に使用しているので面積は少ない。だから華やかであるが派手過ぎない品の良さが出ている。これが徳乗の色使いだ。今となっては長年の使用による手摺れも自然の効果になっている。

轡の金具や綱の重なり具合を見ていると、その複雑さに感嘆する。こういう彫りだから、盛り上がっているように思えるが、それほど彫りは高くはない。この縄目をたどってみたが、どのようにとぐろを巻いて、繋がっているのかはよくわからない。そうだ、それぞれの模様の下の模様は彫っていないのだ。だから、一つの縄が繋がっている印象を見る人に与え、しかも立体感を感じさせながらも、彫りの山が高くないのだ。これは鐔の小柄櫃に納める為には不可欠な実用重視の配慮だが、このことも複雑・雑多でありながらゴテゴテした感じになるのを防いで、品良くまとめている一因と思う。

我々の通念をくつがえすような破調の美、たいしたものだ。

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