刀装具の観賞(『刀和』2006年5月号)

村上如竹 「八駿馬図」鐔

刀装具の鑑賞のページ

「刀和」の写真は白黒だから差し替え(拡大)

刀装具の鑑賞において、図の持つ意味を知ることは大きい。この鐔は先師の箱書きなどから「群馬図」と認識していたが、この図が「八駿馬」であることを知ってから作者村上如竹の制作の意図、苦心がわかった。このことを記してみたい。

八駿馬とは周の穆王が西遊に用いた八頭の馬で、毛並みの色がそれぞれ違ったと伝えられる伝説上の名馬たちである。中国人は末広がりの八を好み、今でも八駿馬の置物は喜ばれている。

如竹は@画面をはみ出すほどに大胆な構図、A緋色銅など各種色金の創意、B卓越した平象嵌の技法、C上記のA、Bを組み合わせた墨絵象嵌などの独創、D縮緬石目地と言われる地金の処理方法などの特色のある彫りで一世を風靡した。眼を惹きつける魅力は、上記@の条件によることが大きく、この点で、この鐔は面白くない。

他の技法は駆使しているのに、なぜ大胆な図を据紋しなかったのか。それはいずれ劣らぬ毛色が異なる八頭を彫る為と考えたい。
毛並みが異なる八頭を表現するにあたって、表側では高彫で金、四分一、赤銅の地金別に三頭、緋色銅の平象嵌で一頭、赤銅地に片切彫で一頭の計五頭を表現した。裏側でも四分一高彫と赤銅地片切彫、それに金と四分一を組み合わせた平象嵌で三頭を彫っている。すなわち如竹の持てる技法に加えて、珍しい片切彫までも駆使し、それに色金の種類との組み合わせで八頭の毛並みを表現している。

如竹の片切彫は鏨が深い。得意の平象嵌下地彫りの影響で鏨が深く入るのだろうか。深いが柔らかく、清らかな感じがする。
平象嵌の名手だけあって、緋色銅の座った馬と、金と四分一を使用した駆けている馬の二頭は魅力的だ。少ない線による図案のような表現ながら特徴をつかみ、平象嵌にもかかわらず立体感がある。

座ったり、休んでいる状態の馬が大半だから躍動感に欠けるが、これも注文だろうか。あるいは大小鐔の一方に疾駆する馬がいるのだろうか。ただ絵としては疾駆する馬より表現が難しいと思う。

この鐔は、注文による図柄の意味を生かしながら、持てる技法に加えて、新しい技法も試して制作した苦心の作品なのだ。

刀装具の鑑賞のページに戻る