刀装具の観賞(『刀和』2006年8月号)

遅塚久則「玩具図」目貫

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「刀装具優品図譜16」(尚友会)より。刀和の写真は白黒ではっきりしないので差し替え(下の裏の写真共に拡大)

緻密・丁寧な彫りに加えて鮮やかな象嵌で名を上げた遅塚久則の玩具を彫った目貫で、津軽家の旧蔵品と伝えられている。
表裏の目貫に取り上げている玩具の種類は異なるが、構図は同じである。表目貫はビードロ細工のポッペンのようなものとダルマの起きあがり小法師、裏目貫はでんでん太鼓にトトロのような獣の人形。名称を確定できない玩具は、「ポッペン」と「江戸のトトロ」として論を進めていく。ご存知の方にご教示を願いたい。

久則の手癖は、表面からは見えない部分もキチンと彫ることにある。この目貫でも、ダルマの尻の部分には朧銀を埋め込んで起きあがり小法師のオモリを彫っている。また着物に金の象嵌を入れているが、この象嵌はダルマ頭部の着物にも入っている。太鼓を叩く紐付きの撥の一つも、眼に入らない太鼓上部に彫り加えている。そして江戸のトトロの顔は、見えない裏側も彫って立体彫刻になっている。この立体感重視の特徴は目貫の裏にも現れており、ダルマと江戸のトトロの部分の素銅は裏から深く叩き出されている。

(叩き出しの深さがご理解いただけるか?なお銘は赤銅の棒に久則と花押をそれぞれ切っている)

次に久則の世評の高い象嵌技術を観てみよう。ポッペンと太鼓の棒の部分は赤銅で、そこに大森英秀に学んだとの言い伝えが首肯される華麗な蒔絵象嵌が施されている。ポッペン、でんでん太鼓の模様は素銅の地金に金を着せる(あるいは象嵌)という一段階の工程を加えた上に赤銅象嵌している。普通の金工であれば地金に直接、象嵌をしていく。ポッペンの蔓草の花は緻密で手綺麗だ。太鼓には金の歯車形の中に赤銅で巴紋が鮮やかに浮かび出ている。

ともかく丁寧で「ここまでやるのか」との思いを抱く。現代の彫刻家の言に「彫り過ぎると作品がダメになる」があるが、確かに水戸金工の一部に見られるがやり過ぎは品格を損なう。久則の作品にもあくの強い水戸彫の匂いを感じるが、彼は金工ではなく、水戸の支藩である守山藩の武士であった。久則のやり過ぎても品格を保つところは出自の影響だろうか。また濃密・華麗な色彩の中に品格を保つ感覚も凄いと思う。素銅、赤銅、金、朧銀の使用バランスに加え、江戸のトトロの腹に入れた銀の使用面積が何とも言えない。

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