後藤栄乗「二疋獅子」

所蔵品の鑑賞のページ

はじめに

この目貫は2017大刀剣市で購入したものだ。初日にショーケースの上から観て「いいものだな」と感じ、すぐ売れるものと思っていたが3日めにも残っていた。そこで手に取って拝見させていただき、裏を観て即座に購入したものである。
私に限らないだろうが、買わないとまじめに勉強しないものだ。私は光乗とされている素晴らしい三疋獅子を所持しているが、それは群を抜いた出来であり、他との比較などする必要が無かったが、この目貫購入後に後藤の二疋獅子を改めて勉強する。
刀屋さんは無銘栄乗として販売されていたが、この見解に賛成したい。以下は自分なりに栄乗と判断した経緯を写真を活用して説明していきたい。

   
   

(注)写真は拡大している。所蔵品の目貫の横幅は3.5センチ強である。

1.この目貫の特徴

掲示の写真を観ていただいたらわかると思うが、次ぎのような特徴がある。

  1. 彫りは山と谷のメリハリがきちんとついており、彫技は慣れた鏨使いで、伸び伸びと彫っている。
  2. 獅子の表情は明るく、仲良く(信頼して)、溌剌としている様子だ。
  3. 根は陰陽根ではなく、四つ根で留めている。根は長めであり、現在は上方に曲げられていている。
  4. 後藤の中でも薄手の金で作成している。(所蔵の光乗の三疋獅子よりも薄金)
  5. 薄いことに関係すると思うが、実に丁寧に叩きだし、絞りこんで表の彫りの土台にしている。これほど丁寧な作業跡は、私にとっては初見であり、感激したものである。(ヤニ台に金地金を乗せ、温めながら上から叩いて、地金を絞っていくと教えていただく)
  6. 横の長さは3.5センチ強で、大ぶりの方と考える。(所蔵の光乗の三疋獅子は3.1センチ)
  7. 往古は拵に付いて伝来したものと考えられる。表面の凹んだところの金錆、逆に凸の箇所には当たり傷などがある。後藤家の鑑定時の極め鏨は見当たらないのも、その理由である。
  8. 斑は表目貫(左)手前の獅子の腰にあるような木瓜斑だが、裏目貫奥の獅子の腹には洲浜斑的なものがあり、定型的ではない。
  9. 金色については感覚的なものになるし、保存状態、色揚げの実施などで変化するが、所蔵の光乗の三疋獅子目貫と大差ない。 (写真では、背景の白紙が薄青灰色がかって映っているように本来の金色とは違うことはご了承いただきたい)

陰陽根でないことから、五代以降と判断する(五代にも陰陽根はあり、また四代以前の作でも陰陽根でなくとも極められているのもあるが)。
薄手の金地金であることから、江戸中期以降のものではないと判断する。すなわち桃山~江戸時代前期と判断する。
なお、斑は顕乗以降が木瓜斑になり、それ以前は洲浜斑と言われているが、折紙で伝承された作品や、現在極められている作品を拝見すると、当てはまらないようだ。私が所蔵している光乗とされている目貫も、この目貫と同様に木瓜斑もあれば洲浜斑もあるという状態だ。

なお、今回、上記写真を撮って気が付いたのだが、表目貫の獅子の目が、出目が強調されているように見える。これは金錆で覆われている顔と目の周りが窪んで見えないからスポットライトも当てて撮った為である。別の写真と比較して欲しい。ただし、以下ではこれも特徴かと考えて、出目に見える写真を採用して、これと各代の作品と比較する。

今回の比較で採用する写真 (これも素人写真であるが、下よりはマシとして採用) 
   
 後ろ獅子の目が出目に見える。  
 実際は以下のように肉眼では見える。 
   
 下側に影が出来てしまう。腹の筋は明瞭。  前側の獅子の下側に影ができる。

2.各代の作品との比較鑑定 (表目貫

後藤作品の特に上六代の代別などは、在銘作がほとんど無いのだからわからない。『後藤家彫亀鑑』には、「股の幅」「足首の上」「腕首」「踏み延べの後足」「見越しの足」「首から背中」「胴」「口の中」「下顎」「歯」「眼の間」「眼」「額の皺」「胸」「まくり毛」「眉の止まり」「眉尻」「額」「見返りの顔」「斑」など別に、上六代別に見所も書かれているが、感覚的な表現で手書きの挿絵であり、わかりにくい。また祐乗、宗乗、乗真の上三代は言及が多いが光乗以下については光乗が祐乗に似ているとかは書かれているが、徳乗、栄乗への言及は少ない。
近代から最近の本においても同様である。(以下の
章の中で、本に書かれていることに言及)

そこで今回は写真比較という手法を取った。幸い、二疋獅子は多く残されていて、折紙が付いているもの、伝来のはっきりしたものが現存している。そこで、この目貫の作者を鑑定する為に、
陰陽根が基本の上三代は除いて、四代光乗から十代廉乗までの金無垢獅子目貫と比較したい。金二疋獅子目貫のカラー写真で揃えたかったが、程乗は見つからず、徳乗には赤銅の一疋獅子を、栄乗も一疋獅子の写真も掲載した。参考にした資料は『後藤家十七代の刀装具』(佐野美術館、根津美術館、徳川美術館)、『鴻池家秘蔵特別展』(日本刀装具美術館)、『所蔵品選集 刀装具』(黒川古文化研究所)に所載の伝来の明確なもの(折紙があるもの)を基本とした。

まず表目貫から比較していきたい。(長さは表目貫に記す)。

表目貫-光乗との比較

    <光乗作について>
後ろの獅子の顔は堂々としている。
所蔵品はより斜め下に顎を引いて
いる感じ。
下前の獅子のは光乗は開いてい
るが、所蔵品は閉じて揃えている。 
 光乗は『後藤家十七代の刀装具』より 長さ3.5センチ

表目貫-徳乗(親子獅子)との比較

    <徳乗作について>
親子獅子になっていて比較しにくいが、後ろ
の親獅子の頭部が大きい。より獰猛な感じ
である。
顔は所蔵品のように大きく左斜めにはして
いない。
下前の獅子は子獅子で、写真も不鮮明で
あり、比較は差し控える。
 
 徳乗は『鴻池家秘蔵特別展』より…安永8年 代百貫 光孝 法量の明記無いが、写真が原寸として長さ2.7センチ

表目貫-徳乗(赤銅一疋獅子)との比較

    <徳乗作について>
赤銅の一疋獅子だが、上の親子獅子後方
の親獅子と似ている。頭部が大きく、獰猛
な感じである。
顔の向きも上の親子獅子と似ている。前腕
は、やや広がって、所蔵品に似ている。


 
 徳乗は『鴻池家秘蔵特別展』より…明和8年 代二枚五両 光孝 法量の明記無いが、写真が原寸として長さ2.8センチ

表目貫-栄乗(親子獅子)との比較

    <栄乗作について>
親子獅子である。後ろの親獅子は胴が
長いが尾の巻き毛など所蔵品に似てい
る。
徳乗の親子獅子よりも顔を左斜め下に
曲げているが、所蔵品ほどでない。
身体のあばら骨の筋が目立つ。
下前の子獅子は徳乗の子獅子より、胴
が長い。
 
  栄乗は『鴻池家秘蔵特別展』より…宝暦10年 代百貫 光孝「子連也」と明記 法量の明記無いが、写真が原寸として長さ3.3センチ

表目貫-栄乗との比較

    <栄乗作について>
写真が不鮮明で、光っているところもあり、
顔の表情などはわかり難い。
所蔵品より小ぶりであり、特に前方の獅子
が詰まった感じはするが、両獅子の顔の向
き、姿態、手脚の感じ、胴の凹みの彫りなど
は、所蔵品と似ている。尾の巻き毛も似てい

獅子の胸の筋肉の割れが前過ぎる。
 
  栄乗は『鴻池家秘蔵特別展』より…安永6年 代二百貫(ただし三所物の目貫) 光孝 法量の明記無いが、写真が原寸として長さ3.1センチ

表目貫-栄乗(一疋獅子A)との比較

    <栄乗作について>
これは一疋獅子だから、後ろの獅子との
比較になる。
獅子は顔を横に強く振り向き、さらに斜め
下に向けて顎を引いているが、この格好
は所蔵品と似ている

この獅子の尻尾の巻き毛の向き、彫りの
感じはよく似ている
。 
 栄乗は 『後藤家十七代の刀装具』より…天保12年9月代金2枚8両 光晃  長さ3.3センチ

表目貫-栄乗(一疋獅子B)との比較

    <栄乗作について>
これも一疋獅子だ。上の一疋獅子と顔の向
き、姿態もよく似ている。さすがに同極め。
獅子の顔の振り向き方は所蔵品より斜めが
強いが、この向き方、顎の引き方などは
所蔵品と似ているし、左側の出目の感じも
似ていると思う。

この獅子の尻尾の巻き毛の向き、彫りの
感じはよく似ている
。 
 栄乗は『鴻池家秘蔵特別展』より…安永6年 代金2枚5両 光孝 法量の明記無いが、写真が原寸として長さ3.2センチ

表目貫-覚乗(伝)との比較

    <覚乗(伝)について>
後ろの獅子の頭部、顔が小さい。口の開
け方が大きい。
写真のせいか、上唇がのっぺりと厚く見
える。右胸がふっくらで左胸と差が目立つ。
胴と後脚の間にくびれ(段差)が明瞭。
写真が右下がりの可能性もあるが、前の
獅子は見上げるというよりは横に位置し、
この獅子も腹と後脚の間のくびれ(段差)
が目立つ。
 覚乗は『所蔵品選集 刀装具』(黒川古文化研究所)より…覚乗と伝わる。研究所は極めの根拠は不明としている。  長さ3.56センチ

表目貫-顕乗との比較

    <顕乗について>
後ろの獅子の顔はそれほど斜め下に
はしていない。開いた口の下の線が写真
では直線的に目立つ。
前の獅子は、下に突っ込んでいる感じ。 
 顕乗は 『後藤家十七代の刀装具』より 長さ3.4センチ

表目貫-顕乗(尾張徳川家)との比較

     <顕乗(尾張徳川)について>
上の顕乗とよく似ている。手の開き加減や
口の下の線、前の獅子の姿態など、なる
ほど同一作者と思われる。
後ろの獅子の左胸が膨らむ感じ。
 顕乗は『後藤家十七代の刀装具』より…宝暦14年5月代金9枚 光孝(三所物)徳川美術館 長さ3.4センチ

表目貫-即乗との比較

    <即乗について>
両方の獅子ともに、全体にふっくらして
いる。
後ろの獅子の頭部、顔は大きい感じ。
左胸が膨らむ感じは前の顕乗(尾張徳
川)と似ている。
前の獅子は下顎が少し出ているが、所蔵
品と似ている
 即乗は 『後藤家十七代の刀装具』より  長さ3.5センチ

表目貫-廉乗との比較

    <廉乗について>
後ろの獅子の口の開け方が大きい。
胸が膨らむ感じは前の顕乗(尾張徳
川)、即乗と似て、ふっくらしている。
前の獅子の前脚の間は開いておらず、
所蔵品と似ている

 『後藤家十七代の刀装具』より…寛政3年2月代金2枚5両 光守 徳川美術館   長さ3.4センチ

ここで表目貫の後ろに位置して振り向いている獅子の奥側の手・腕(獅子にとっては左手)を見ていただきたい。所蔵品の獅子の腕は、手前の腕(獅子にとっては右手)に比較して短めで、かつ手首 を上げている。
この手・腕に似ているのを探すと、栄乗の一疋獅子
(A、Bとも)であり、次いで即乗、廉乗も似ている方である。ただし栄乗の親子獅子と二疋獅子は手首の感じは似ているが、腕はそれほど短くはない。

3.各代の作品との比較鑑定 (裏目貫

次ぎに裏目貫を同様に比較する。

裏目貫-光乗との比較

    <光乗作について>
獅子の胴が詰まった感じである。
下前の獅子のは開いている。 
 光乗は『後藤家十七代の刀装具』より

裏目貫-徳乗(親子獅子)との比較

    <徳乗作について>
親子獅子であり、比較は後方の獅子だけ
だが、頭部が大きい。写真が不鮮明だが、
奥のたてがみが立っている。子獅子の上
に跨ぐような姿態である。
頭部、顔も所蔵品ほど横に曲げていない。

子獅子は写真ではわからない。 
 徳乗は『鴻池家秘蔵特別展』より…安永8年 代百貫 光孝 

裏目貫-徳乗(赤銅一匹獅子)との比較

    <徳乗作について>
姿態が違い過ぎるから比較にならないが、
下の栄乗一匹獅子より、胴が詰まった感じ
がし、筋肉質な感じもする。
 
 徳乗は『鴻池家秘蔵特別展』より…明和8年 代二枚五両 光孝 

裏目貫-栄乗(親子獅子)との比較

    <栄乗作について>
後方の親獅子が、子獅子の上から跨いでいる
図である。
親獅子の顔の向け方は所蔵品と似ている
顔の表情は写真が不鮮明であるが、前脚の
手指の上げ方なども似ている。

胴が所蔵品のより太り気味だが、これは跨いで
いる構図の為だろうか。

栄乗は 『鴻池家秘蔵特別展』より…宝暦10年 代百貫 光孝「子連也」と明記

裏目貫-栄乗との比較

    <栄乗作について>
顔部分の写真が不鮮明であるが、後方の
獅子の顔の向き、胴の姿態などや、前の手
指の反らし方も所蔵品に似ている

ただし奥側の手が長い。
前方の獅子の顔も不鮮明だが、胴が詰まっ
た感じである。

栄乗は 『鴻池家秘蔵特別展』より…安永6年 代二百貫 光孝(ただし三所物の目貫)

裏目貫-栄乗(一疋獅子A)との比較

    <栄乗作について>
姿態が違い過ぎるので参考にし難いが
背中の3つ凹んだ彫りや腹部の同様な
彫りは、所蔵品(前の獅子)のと似ている

この獅子の尻尾の巻き毛の向き、感じ
は所蔵品(前の獅子)のに似ている
。 
 栄乗は 『後藤家十七代の刀装具』より…天保12年9月代金2枚8両 光晃  

裏目貫-栄乗(一疋獅子B)との比較

    <栄乗作について>
上の栄乗作一疋獅子と似ており、極めの
適切さに驚く。
所蔵品とは姿態が違い過ぎるので参考に
し難いが、尻尾の巻き毛の向き、感じは
所蔵品(前の獅子)のに似ている

写真の撮り方か、上の一疋獅子ほどには
背中の凹んだ彫りは見えない。ただし腹部
の同様な彫りは、所蔵品(前の獅子)のと
似ている
 栄乗は『鴻池家秘蔵特別展』より…安永6年 代金2枚5両 光孝   

裏目貫-覚乗(伝)との比較

    <覚乗(伝)について>
後ろの獅子の尾の巻き毛は向きが反対。
前の獅子の上唇がのっぺりと厚く見える。
前の獅子は、そんなに身体は下に突っ
込んでおらす、獅子も下から見上げると
言うより、頭を上げ気味という感じである。
 覚乗は『所蔵品選集 刀装具』(黒川古文化研究所)より…覚乗と伝わる。研究所は極めの根拠は不明としている。  

裏目貫-顕乗との比較

    <顕乗について>
裏も前の獅子は、下に突っ込んで見上げ
ている感じ。
後ろの獅子は向こう側の前足が所蔵品の
より長いが、尾の巻き毛や全体の印象は
所蔵品と似ている
。 
 顕乗は 『後藤家十七代の刀装具』より

裏目貫-顕乗(尾張徳川家)との比較

    <顕乗(尾張徳川)について>
前も後ろの獅子も胴が詰まる感じである。
後ろの獅子は 上の顕乗とよく似ているが
尾の巻き毛の向きが逆である。
後ろの獅子は、より下に突っ込んで尻を上
げている。
 顕乗は『後藤家十七代の刀装具』より…宝暦14年5月代金9枚 光孝(三所物)徳川美術館

裏目貫-即乗との比較

スキャナ-のミスで前獅子の後脚は参考にならず
 
  <即乗について>
後ろの獅子は、より身体を曲げている(丸
くなっている)。顔もより後ろに曲げている。
上顎・鼻が上向き加減である。
ふくよかな感じがする。
後ろの獅子は上の顕乗に似て、胴が詰ま
って下に突っ込んでいる。
前の獅子の後ろ脚は細く見えるが、スキャ
ン・ミスであり、参考にできない。
 即乗は 『後藤家十七代の刀装具』より 

裏目貫-廉乗との比較

    <廉乗について>
後ろの獅子に比べて前の獅子の方が大き
い感じである。
前の獅子は顕乗、即乗と同様に胴が詰ま
り、下に突っ込んでから顔を持ち上げて
見上げている。
 『後藤家十七代の刀装具』より…寛政3年2月代金2枚5両 光守 )徳川美術館   

表目貫で比較したのと同様に、裏目貫の後ろに位置して振り向いている獅子の奥側の手・腕(獅子にとっては右手)に注目したい。
所蔵品の振り向いている獅子の奥側の腕は、表目貫におけるのと同様に、手前の腕(獅子にとっては左手)に比較して短めで、かつ手首 を上げている。
こちらの方も各代を通して似ているのを探すと、栄乗の
一疋獅子(A、B)であることがわかる(ただし栄乗の親子獅子と二疋獅子は手首は似ているが長さは短くない)、即乗、廉乗は手首の上げ方は似ているが、腕の長さは少し長めである。

4.拡大の写真比較鑑定のまとめ

以上の比較から栄乗と極められている作品とよく似ており、栄乗と極めることは妥当と考える。

今回は、秘伝や感覚での極めではなく、写真によって品物の特徴を把握して判断しようとしている姿勢をご理解いただきたい。 また、このような方法の方が楽しい。
この方法の妥当性については、上記で比較した同極めの作品(栄乗一疋獅子A…天保12年光晃の折紙、、B…安永6年光孝の折紙と、顕乗二疋獅子…一つは尾張徳川家伝来の宝暦14年光孝折紙)を比較しても理解できる。それぞれがよく似ている。

再度、栄乗極めの獅子の写真と所蔵品の写真を一緒に掲載しておく。

 
 所蔵品    
安永6年光孝折紙
三所物で二百貫
   
宝暦10年光孝折紙
代百貫「子連也」とあ
り、親子獅子
   
天保12年光晃折紙
代金2枚8両
  
   
安永6年光孝折紙
代金2枚5両
   
似ている点は、上記の各比較において下線を引いておいたが、次の点に改めて目を向けていただきたい。
表目貫(左側)後方の獅子の顔の向け方(横に強くひねり、そこから顎を引いて少しうつむき加減)が共通。
表目貫(左側)後方の獅子の尾の巻き毛の調子がよく似ている。
裏目貫(右側)後方の獅子は比較できるのが二疋獅子だが、顔の向け方、尾の巻き毛は同じである。
裏目貫(右側)前方の獅子の尾の巻き毛の調子は上記全てにおいて似ている。  
表目貫も裏目貫においても、獅子の背中に見える凹んだ彫り、腹にある凹んだ彫りの感じが似ている。
表目貫も裏目貫においても、後方の獅子の伸ばした前脚の感じ、その手首の感じが似ている。

また所蔵品の写真掲載にあたり、表目貫後方の獅子の目が出目に写っていることを断ったが、こうして並べると、どの目貫
も出目の感じであり、これも栄乗の特色なのかとも考えている。

5.栄乗に作風(諸書の記述内容)

これまでは、敢えて触れないできた諸書における栄乗の作風に関する記述を抜き出しておく。

抽象的な言葉が多く、わからないだろう。「篤実」とは広辞苑には「人情にあつく誠実なこと」とある。「律儀」とは「義理がたいこと、実直であること」であり、彫刻の作風に使われても何のことかわからない。
この中で具体的な特徴は「薄金」(光乗、徳乗も薄金であるが、さらに薄い)であり、それはこの目貫の特徴と一致する。

栄乗は、父徳乗が在世中だが、文禄3年(1594)に家業を相続し、父とともに大坂で豊臣家に出仕して用務に従事する。豊臣家没落後に一度京都に引退する。徳川家に恩顧を受けていた叔父の長乗の取りなしで後藤家再興を嘆願し、元和2年(1616)に2代将軍秀忠から分銅・大判改め役ならびに彫物役を任命される。栄乗は元和3年(1617)に江戸で客死するが、元和5年(1619)に徳川幕府から旧領二五〇石を安堵される。(二五〇石安堵の時期については諸説ある)

豊臣家没落後、徳川家に仕官できるまでは苦労し、この時に金の節約も兼ねて更に「薄金」での製作を試みたとも考えたが、それまでは豊臣家黄金時代であり、そういうことではないのだろう。「薄金」でもこれだけ彫れるという技術を誇ったのであろうか。あるいは後藤徳乗が金の貨幣(大判、小判)の製造・管理を請け負う中で、工房が整備され、金地金の加工技術が高まり、彫金の土台造りに下職に腕の良い人材が揃っていたのであろうか。

「薄金」と大いに関係すると思うが、地金の叩きだしと絞りに神経を使って、この目貫の裏のように見事に仕立てて私を感嘆させたのであろう。薄い為に、時に失敗してアテ金、キリカネで補修することもあり、加納夏雄に酷評されたのである。

 
 裏目貫の裏。獅子の頭部を山高くする為に、これ
だけ丁寧に叩き、しぼり込んでいる。

オタクの私は考えた。「薄金」で山高く彫る為に、獅子の顔をできるだけ横向きにして胴と密着させて顔と胴との間の段差を無くし、また顎もより強く引く姿態にして首と顎との間の段差も彫らなくて済むようにしたのではなかろうか。「薄金」が獅子の姿態に影響していると考えたが、もちろん根拠はない。

私は、愛蔵している光乗の三疋獅子からは「国盗り」と名付けたような覇気を感じるが、この二疋獅子からは若々しく、溌剌として、それぞれが仲が良い様子を感じる。共に好きな作品である。
上掲した一匹獅子の内、天保12年光晃折紙の一疋獅子は有名なもので『刀装具鑑賞画題事典』(福士繁雄著)の中でも掲載され、「祖法を守り、鏨使いが勝れ、彫り口は山高く、谷低くして立体的となり、一疋獅子としてこれほどまでに迫力のある作は少ない」と高く評価されているものである。福士繁雄氏が高く評価されているように、栄乗は獅子の彫りが上手だったのではなかろうか。

おわりに

本文に黒川古文化研究所の覚乗(伝)の目貫を転載させていただいたが、ここの学芸員川見典久氏は研究者らしく、無条件に伝来を信じるのではなく、根拠のあることで作者を比定しようとされている。
この覚乗(伝)の目貫の解説の一部だが「顕乗の従兄弟にあたる覚乗(1589~1656)の作として伝わるが、根拠となる資料は付属しない。巻き毛や足などの表現に若干の形式化が見られるが、力強い造形や経年の痕跡から江戸前期の制作と考えておく。」と書かれている。(ちなみに川見氏は、このカタログに所載の顕乗の鈴虫図三所物における金象嵌銘の略体花押や、即乗の唐獅子図小柄の銘が「即乗」銘を名乗っていることなどに疑問も呈されている)

このような学芸員、研究者の姿勢が他の美術工芸品と肩を並べて評価される為には不可欠と思う。川見典久氏(著書『刀装具ワンダーランド』)や内藤直子氏(著書『”超絶技巧”の源流』)のように、旧来の刀剣・刀装具界の色に染まっていない若手研究者・学芸員の益々のご活躍を期待したい。


各書における写真にはお世話になった。カラーで掲載されているものとなると、やはり祐乗極めの二疋獅子の写真が多く、後代の作品は少なかった。祐乗極めの作品も興味深く、機会があれば光乗の三疋獅子の所蔵品と比較してアップしたい。

また表目貫が出目に写る件で、そう見えない写真も掲載して比較したが、写真でも印象操作が可能であることに改めて気が付いた。難しいものであり、やはり実際の眼で観ての鑑賞が大事と思う(ただし、私も今は記憶力が衰えて、細部は思い出さないのだが)。

将来の研究者の為に、図録の出版も非常に重要であると改めて思うと同時に書恩に厚くお礼申し上げます。(出版などの営利を目的としておりませんので、各書・各写真の撮影者の著作権者やご所蔵の方から転載の許可は得ておりません。ご寛恕のほどをお願いいたします)


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