●母の死と信家鐔

平成10年12月17日に母が逝去した。今年の春以来、母の具合が悪く、覚悟をしていた。

11月の終わりに、たまたま出向いた刀屋さんで信家の小鐔を見つけた。典型的な「放れ銘」で表に「南無妙法蓮華経」と裏には「生者必滅」の文字がある木瓜型の鐔である。鉄味も紫錆で非常に良く、小さいことを除けば申し分のない信家である。
中村覚太夫の信家鐔集にも122図として所載されている。
母は信仰心の篤い人で、晩年に日蓮宗のお寺に墓所を購入し、毎朝、南無妙法蓮華経を唱えていた。供養になると思ったことも購入の動機である。小鐔にも関わらず値段は高かったが、これが大きい信家であれば、倍以上の価格となる。
鉄味の良さ、形の良さ、地鉄の変化と働き、毛彫りの味が信家の良いところであるが、毛彫りの彫りの深さに変化があるところもなるほど信家の良さの秘密かとも感じた。
信家鐔集における秋山久作翁の書き込みは次の通りである。
「これも未見である。耳は打ち返し丸耳であろう。木瓜形で表は題目、裏は生者必滅の文を彫る。出来は普通、放れ銘」

なお裏の文字であるが、左周りに読むと「生滅者必」となっている。櫃穴以外に小さい穴が4つ開けられている。信家鐔集にはもう1枚「生者必滅」の鐔(21図)が掲載されているが、ここも上下に「生者」、左右を左から読むと「滅必」であり、左まわりに読むと「生滅者必」となる。なおこの鐔も小さい穴が開けられているように見える。この小さい穴は何か意味があるのであろうか。また読み方も「生者必滅」ではなく、「生、滅するは必す」とでも読んだのであろうか。

いずれにしても母の恩を忘れずに、「生者必滅、会者定離」を念頭に1日々を大切に生きていきたい。

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