●通乗の本花押と略体花押

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後藤家十一代の通乗光寿の作品に対して、稲葉通龍は「祐光通」の三作と言って高く評価しているが、現代では「祐光顕」の三作の方が妥当と考えられている。私も顕乗の方が全般的には上だと思う。

後藤家の作品は、十代廉乗までは「自身銘に本花押」が原則であったが、通乗以降は「自身銘に略体花押」、そして「先祖の作の極め銘に本花押」が普通になる。

通乗光寿の在銘品は比較的多いが、上記原則のように略体花押が多く、本花押は少ない。

以前に尚友会が津軽家の名品を集めて展示して、図録を作った。
この中に通乗の名品が多くあったが、この時に展示された通乗は全て本花押を切っている。(尚友会図録16参照)

その後、通乗の本花押の作品を2点見たが、一段と良いものであった。

このことから、私は次のような仮説を提示したい。

通乗の場合は、大名などからの特別の注文品は本花押を切って納めた。

もちろん、略体花押の作品にも良いものがあるので、断言はできないが、一つの仮説として提示しておきたい。

ちなみに私は、通乗は伝統的な図柄を彫ったものよりも、絵風で動きのある対象物を彫ったものが良いと感じる。(野田敬明も同様に述べている)

今後とも気をつけて鑑賞していきたいが、皆様のご意見も賜りたい。

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