後藤廉乗「枝菊」小柄


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これも廉乗。銘は後藤光侶(花押)である。

『刀装金工 後藤家十七代』に写真掲載のものである。これは四分一の地に赤銅色絵のものである。魚子地も四分一である。

1.後藤物の良さ開眼

この小柄は購入して何年になるだろう。ある刀屋さんが下値を決めての入札方法で、小道具を販売した時に購入したものである。

その時まで後藤家のものは持っていなかったと思う。小道具も金工物より鉄鐔に凝っていた時代である。この小柄を見て、金工もの、後藤ものはいいなとはじめて思った品である。

これ以降、後藤ものを、廉乗からさかのぼって、集めることを試みた。

2.廉乗の品の良さー(注)蝋燭目貫の項を参考にしてほしいー

これまた非常に品の良いものである。四分一地と云っても赤銅に見まがうほど黒く見える。その地に漆黒の赤銅で枝菊を彫り、菊の花は金と銀に分けられた花と銀一色の花、それに菊のつぼみは大きめの金色絵と、固い銀の少し小さなつぼみを彫っている。

葉には大きさを変えた露が銀で象嵌してある。葉の肉取りも丸まった葉、裏返っている葉、大きい葉、小さい葉、横向きの葉となんとも言えない味のある肉取りで彫っている。「全きは欠けの始まり」として全きを嫌う後藤らしく、葉の中にはちぎれたものもある。

枝には後藤家の掟である虫食いを彫り、ここでも傷を意識的に生み出している。細かい彫りではないが、シャープである。

金から銀に移る花色も自然である。よくこのようなことができると感心する。

漆黒の赤銅の色も良い。後藤家の枝菊の中では一番良いと自負している。(もちろん手前誉めですよ。もっとすごいのがどこかにあるでしょう)

この小柄も地味に見えるが、華やかなものである。派手ではないが華やかである。蝋燭目貫でも、そうだが廉乗は地味に見えて華やかなものなのではなかろうか。

漆黒の葉が肉取りが良いから、光の具合で輝くのである。そうだ、肉置きのとりかたがうまいのも廉乗の上作の特色である。

この品の良さも線の細い品の良さではなく、たくましさを感じさせる品の良さである。稲葉通龍が云うところの「おとなしく大様なる所あり」も理解できる。野田敬明が『金工鑑定秘訣』の中で述べた「気格抜群にして面白く、見所ある作なり。ー中略ー上彫荒く、濶達(闊達に同じ)の気象見ゆる。」も理解できる。

3.廉乗の作位

廉乗の作品について先人は次のようにムラがあることを指摘している。(『刀装小道具全集2−後藤家−』より)

  1. 精巧な作と並出来のものの差が大きいのが目につく。いずれの作も画面いっぱいに場所をつかって図柄を彫りつける傾向がある。
  2. 廉乗の高彫は、図柄の肉取りが比較的に低いものが多い。そしてわりあいに濃密で手間をかけた彫法である。
  3. 鏨使いは多少荒っぽい傾向がある。

私は、ご覧のように、出来の良い廉乗しか知らないから、精巧な作と並出来の差が大きいかどうかもわからない。
またこの小柄は画面いっぱいに場所を使って図柄を彫りつけることにはなっていない。

4.銘と裏の仕立て

裏は四分一磨地に猫掻きヤスリで、無造作にして、そこに細い鏨で銘が切ってある。

「小柄、こうがいの裏の猫かき鑢は、歴代の人々に比べると右下がりの角度の大きな大筋違になるものや、間隔が不規則で荒くしかも線のよれた感じの無造作な鑢目をみるのもこの人の手癖であろう。もちろん尋常正確に仕上げた鑢目が多いことは記すまでもない。」『刀装小道具全集2−後藤家−』より)

私がこの「所蔵品の鑑賞」の中で紹介するものも、いつかは処分して売却するものもあると思う。この時でも、この小柄は最後の方まで残すと思う。そして娘に贈りたいと考えている。


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